市原ブログ

レラティブストレングス投資の月次シグナルなど

バンガードの日本撤退:分析と所見

f:id:hiroshi_ichihara:20200828104155j:plain

 

低コスト・インデックスファンドの世界的草分け、バンガード社が、日本拠点での営業活動を段階的に終了し、日本支社を閉鎖すると発表しました。

 

日経新聞記事によると、「成長の見込める中国本土市場に経営資源を振り向ける」とのことです。

 

日本の個人金融資産は2000兆円弱の残高があるものの、その多くは預貯金と保険が占めています。NISAなど官民あげて「貯蓄から投資へ」と掛け声を上げていますが、その規模は小さく、投資への大きな資金シフトは望めそうにありません。

 

しかも、ニッセイアセットや三菱UFJ国際投信(eMAXIS Slim)が、なりふり構わぬ低価格競争を仕掛け、バンガード社の価格優位性は薄れてしまいました。

 

バンガード社の低コスト・インデックスファンドという「薄利多売ビジネスモデル」は規模がすべてです。それなのに、日本では市場規模の拡大も市場シェアの拡大も期待できないという状況になってしまいました。

 

バンガード社の日本でのコスト・リーダーシップ戦略は、詰んでしまったわけです。

 

一方で、中国市場は2025年までに米国に次ぐ市場規模に成長すると予想されており、しかも中国人の投資意欲は旺盛です。おそらくですが、中国の資産運用会社は日系と違い、採算度外視の低コスト・インデックスファンドを売るようなことはしないでしょう。

 

であれば、日本で投資啓蒙活動にコストをかけるよりも、中国市場に参入するべき、という経営判断は妥当といえます。

 

どんなビジネスでもそうなのですが、流れのない所に流れを生み出すのはものすごいエネルギーを要する一方、すでにある流れに乗っかるのは簡単なのです。

 

今回のバンガード撤退は、大きな示唆を含んでいます。

 

貯蓄から投資へのシフトが望めない日本では、低コスト・インデックスファンドだけのビジネスは成り立たないのです。

 

ニッセイアセットや三菱UFJ投信が低コスト競争できるのは、ほかに収益性の高い商品(高齢富裕層をターゲットとした高付加価値・高コスト・ファンド)を持っているからです。さらに、生命保険や消費者ローンという高収益商品で儲けている親会社(日本生命/三菱UFJ銀行)からの支援もあります。

 

このような競合他社がいる市場にコスト・リーダーシップ戦略だけで参入しようというのが、土台無理な話だったのです。

 

バンガード社は、アメリカで成功した「超巨大・低コスト・インデックスファンド」という成功体験にとらわれず、日本では新たなビジネスモデルを生み出すべきだったのかもしれません。

 

また、私も含めてですが、低コスト・インデックスファンドしか買わない投資家にも責任があります(私は一部でレバレッジETFを買っていますが、ほとんどは低コスト・インデックスファンド)。

 

低コスト・インデックスファンドしか買わないというのは、スーパーで安売り卵だけ買って帰るのと同じです。

 

スーパーは、赤字覚悟の安売り卵でお客さんを呼び、ほかの儲けの出る商品も買ってもらって全体の採算を確保します。

 

なのに、安売り卵だけ買って帰るという「マネーリテラシーの高い」お客さんが増えると、スーパーは潰れてしまいます。つまり、「次のバンガード」が出てきてもおかしくありません。

 

「高い商品を買ってお店を儲けさせてくれる他のお客さんがいるから、自分は安売り卵を買えるのだ」という感謝の心を持ちたいものです。

 

とりとめのない文章になってしまいました。。。

 

低コスト・インデックスファンドが日本で定着したのは、バンガード社のおかげです。バンガード社が参入しなかったら、eMAXIS Slimや<購入・換金手数料なし>ニッセイインデックスファンドは誕生してないでしょう。

 

バンガード社の撤退はとても残念です。これまでの日本での活動に感謝し、中国本土での成功を祈りたいと思います。